鳳凰単叢の炭火焙煎ガイド
鳳凰単叢の炭火焙煎ガイド
— 軽火・中火・重火の違いと「飲み始め目安」—
鳳凰単叢は焙煎の度合いと時間の経過で香味が育ち続けます。ここでは、広東省・潮州の炭火焙煎を軽火/中火/重火の3タイプに分け、“いつ飲み始めるか”=飲み始め目安と、その後の育て方まで実務目線で解説します。
※本記事の「飲み始め目安」はピーク時期ではありません。適切な保管で20年以上の長期保存・熟成を推奨します。
炭火焙煎とは?
果木炭などの炭火を熱源に、茶葉を遠赤外線中心の柔らかな熱でじっくり温め、青みを整え、甘みと余韻を引き出す工程。電気焙煎よりも層のある甘み・長い後味が出やすい一方、火加減・距離・時間の管理が難しく、職人の経験が仕上がりを左右します。
3つの焙煎タイプと風味・飲み始め目安(長期保存前提)
1) 軽火(チンフゥォ)
• 特徴:素材の花香・透明感を生かすやさしい火入れ。
• 風味:白花や柑橘を思わせる澄んだ香り、軽やかな口当たり。火香は背景に控えめ。
• 飲み始め目安(=開き始め):約2か月〜
• 長期保存:推奨20年以上。年単位で甘みの輪郭が丸く、余韻が伸びる。
• 変化イメージ:0–2か月=火香やや前面 → 2–12か月=品種香がクリアに → 1–3年=甘みの芯が太る。
• 向いている方:花香・瑞々しさ・軽快な後味を好む方。
2) 中火(ジョンフゥォ)
• 特徴:軽火より一段深く火を入れ骨格とコクを形成。
• 風味:花香に蜜香が重なり、厚みと落ち着いた余韻。食中の相性も良い。
• 飲み始め目安(=香味起動期):約半年〜
• 長期保存:推奨20年以上。1–3年で調和が進み、その後は旨みの層が段階的に深まる。
• 変化イメージ:0–12か月=やや硬い → 1–3年=焙煎香が丸く“ぐっと美味しい”転換 → 3–5年=コク増。
• 向いている方:香りとボディの両立、ペアリング重視。
3) 重火(ジョンフゥォ)
• 特徴:最も強い火入れで重厚な味わいと長い後味を志向。直後は焙煎香が前面。
• 風味:初期は火香が素材を覆いがちだが、熟成でカラメル様の甘香と深いコクが顕在化。
• 飲み始め目安(=熟香の目覚め):約1年〜
• 長期保存:推奨20年以上。年単位で火香が落ち、甘み・旨み・余韻が伸び続ける。
• 変化イメージ:0–12か月=火香主体 → 1–2年=甘香・旨みが浮上 → 2–5年=余韻が顕著に長く。
• 向いている方:低い重心のコク、ビター系の甘香、長い余韻を求める方。
ひと目で分かる比較表
焙煎タイプ 特徴 香味の傾向 飲み始め目安(=開き始め)
軽火 素材感を活かす 花香・清涼感、透明な甘み 約2か月〜
中火 骨格とコク 花香+蜜香、厚み・落ち着き 約半年〜
重火 重厚感と余韻 初期は火香主体→熟成で甘香復活 約1年〜
長期保存の前提:遮光・低湿・密閉・匂い移り厳禁。推奨20年以上。開封後は小分け保存+3–6か月ごとの試飲記録が理想。
「飲み始め目安」を見極める3チェック
1. 香りの層:湯気が刺さらず丸い。温めた茶葉から焙煎香の奥に品種香が立つ。
2. 口当たり:硬さ・渋の張りが抜け、しっとり広がる。
3. 後味:飲み終えた喉に甘さが静かに続く。水を一口含むと甘みが再浮上。
失敗しやすいポイントと対策
• 早飲み評価(重焙):火香が突出し本質を見誤る → 年単位の育ちを前提に。
• 湯温固定:軽火に高温=硬い/重焙に低温=ぼやける → タイプ別に湯温調整。
• 長抽出:特に重焙初期はえぐみ → 秒単位で短く。
• 保管不備:高温多湿・光・匂い移り → 遮光・低湿・密閉を徹底。
電気焙煎の特徴
電気焙煎は、電熱で均一に加熱できるため再現性が高く、歩留まりも安定。香りはクリーンで直線的、雑味が少なく、軽火〜中焙で品種香の輪郭をきれいに見せるのが得意。短時間で仕上げやすく、価格や管理面でも合理的。長期熟成よりも“今の鮮明さ”を狙う設計に向く。抽出時もブレが少なく、店舗提供や定番商品の品質維持に向く。熱の当たりが速く、余韻や甘みの層はやや平面的になりやすい点は留意。香味は透明感重視。
炭火焙煎の特徴
炭火焙煎は、果木炭の遠赤外線でやわらかく芯まで温め、水分と青みを整えながら甘みと余韻を引き出す。熱当たりが緩やかで、香りは層状、口当たりは丸く、後味が長い。中焙〜重焙で真価を発揮し、年単位の熟成で熟香・蜜香・コクが深まる。職人の火加減・距離・時間管理に依存するため手間とコストは上がるが、長期保存(推奨20年以上)での進化が楽しめる。開封後は遮光・低湿で育て、変化を記録し章を重ねられる魅力。
二つの違い
最大の違いは熱の質と時間設計。電気焙煎は電熱の直接加熱で均一・高速、再現性が高く、香りはクリーンで直線的、軽火〜中火で品種香の輪郭をきれいに見せます。一方、炭火焙煎は遠赤外線が穏やかに芯まで届き、水分と青みを整えつつ甘みの層と長い余韻を育てます。中焙〜重焙で真価を発揮し、年単位の熟成で熟香が開くため長期保存(推奨20年以上)に向く設計。電気は“今の鮮明さ”を、炭火は“時間で深まる立体感”を狙う違いです。運用面でも、電気は歩留まりや管理が安定、炭火は職人の技と手間が価格に反映されます。評価軸も電気はクリアさ、炭火は余韻の長さと低重心のコクが鍵。抽出では、電気は湯温を上げても崩れにくく、短時間で安定。炭火は初期ほど極短抽出が有効で、育つにつれ抽出を伸ばすと奥行きが現れます。伝え方も違い、電気は“開封直後からクリア”、炭火は“飲み始め目安を遅めに設定し、その後の章立てを楽しむ”のが要点。です。
ペアリングのヒント
• 軽火:白身魚、白桃、チーズ。塩味や酸味で香りが伸びる。
• 中火:ローストナッツ、焼売、バター香の焼き菓子。旨みとコクが合流。
• 重火:ダークチョコ、熟成チーズ、醤油系甘辛。長い余韻と響き合う。
まとめ(“飲み始め目安”で統一)
• 軽火:約2か月〜開け始め。以降は清らかさを保ちつつ甘みが育つ。
• 中火:約半年〜香味起動。1–3年で調和が進みコクが増す。
• 重火:約1年〜熟香の目覚め。年単位で余韻が伸び続ける。
長期保存は推奨20年以上。 “今開けても、来年も、10年後も”—章を重ねるように味わいは進化します。まさに、中国茶は生きている。